何も考えず部屋から飛び出したあたしを待っていたのは
朝方から降り続いている雨だった


 



「風邪ひいちゃうよ」

後ろからかかる心配そうな声は思いのほかはっきり聞こえた。
静かに、容赦なくあたしの肌に落ちる冷たい雨は、ゆっくり体温を奪う。
やたらはっきり雨音が聞こえるのはキジっちゃんがさしてる傘に雨が落ちているからだろうか。
周りが見えず、雨が降っているとわかっていたのに飛び出し水浸しになっているあたしと、
冷静に傘を持って行き、濡れずにすんでいるキジっちゃん。
思考の現れかたが明確すぎて腹さえ立つ。
ぱしゃぱしゃと静かに水の跳ねる音が聞えて頭上が少しばかり陰ると、さっきまで肌を叩いていた雨が止んだ。
否、キジっちゃんがあたしに傘をさしかけていたから。

「帰ろう」

真後ろから聞こえる声に頷いてしまいそうになるが耐える。

「ほっといて」

ほっといて、ほっといて。
その言葉を何度彼女に言っただろう。
そのたびに困ったようなすねたような顔をして、
そっとあたしの手に触れる彼女。
夏でも少しひんやりした指先が触れて、
何も言わずに手を引かれる。

「やだ」
「やだってキミねぇ…本当に風邪引いちゃうよ?」

何で喧嘩したのかは些細すぎて忘れてしまったけど、多分あたしが悪い。
そんなあたしに傘をさしかけ、体調の心配をし、優しく触れてくれる。
優しすぎて涙が出る。
目頭がぐっと熱くなり痛ささえ感じた。
あたしの涙を見てキジっちゃんは少し顔をしかめた。
頬に伝った涙を拭うように顔を擦られる。

「ごめん」
「何でキジっちゃんがあやまるの」
「だって未知、泣いてるから…私のせいでしょ?」
「違う…キジっちゃんは悪くないもん」

幼児がだだをこねるような反応しか出来ない。
未だに頬に触れている手が暖かかった。

「……戻ろう」

あたしが濡れないように傘を若干傾けながら腕を絡めとり、キジっちゃんの方に寄せるように引っ張られた。
足取り重くついていくあたしの姿は宛ら幼児だったろう。

「キジっちゃん」
「なんだい」
「…ごめんね」
「いいよ、気にしてない。それより部屋戻ったらお風呂入っちゃいなね」
「うん…」

引いた涙がなぜかまた出てくる気がして、
あたしより高い位置にあるキジっちゃんの肩に顔を寄せた。
ついでに自分からギュッと腕に抱きついてみたりして。

まだ降っている雨がほんの少し温かくなった気がした。




fin
 

 

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