「槙先輩、終わりましたか?」
「ええ…でもあと少し修正したい所があるの」
「そうですか…あまり、根を詰めないでくださいね」
横目で見た微笑むあなたは少し違う。
もう一回。
あと一回。
去年の、あの夏の笑顔を見せてほしい。
「そう、ね……じゃあ今日はひとまずここで終わりにするわ」
絵の具で汚れた手を洗うため立ち上がる。
そこではじめて私は刃友と目を合わせた。
綺麗な、整った顔立ち、でもその左目の傷が、
あなたから笑顔を奪った。
どうしたら、
なにをしたら、
また私はあなたの笑顔を見れるようになるのかしら。
無道さんの隣で見せたあの笑顔。
今や無道さんではなしえない。
誰が、何があなたの笑顔を生み出すの?
「ゆか……」
「槙先輩」
名前を紡ごうとした矢先に自分を呼ぶ名前に遮られる。
「ほっぺ、絵の具ついてます」
頬に当てられるあなたの手。
そういえば結構私より背が低かったっけ、なんて場違いな考えは、
その頬の温もりに埋もれて消えた。
拭うようにきゅっと動いたあなたの手は、私の心も動かした。
「ああ、ごめんね、ゆかり」
「しっかりしてくださいよ」
苦笑するあなた。
違うのよ。
そんな笑顔じゃないの。
ねぇ
どうすれば
ねぇ
なにをしたら
あなたにあの夏の笑顔を見い出せるの。
END
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