深い茶だ。
彫りの深い眼窩に鎮座した二つの茶。
私の姿を捕えているのかいないのか。
やや虚ろな目をしながら私の上に跨る人物。
「抵抗しなよ」
「離してくれないかしら」
無意味な言葉だと自分でも思った。
捕まれている両手首が痛い。
「言葉だけじゃわからないんだ、私は。蓉子も知ってるでしょ」
ねぇ、と言いながら空いていたもう片方の手で私をなぞる。
頭の頂きから脇腹あたりまでの体のラインを指先でそっと撫でられゾクっとした。
所詮、女の体なんだなと私は強く実感する。
望まない形でのまぐわいでも体は意図も簡単に反応する。
私に触れているのが彼女だからか。
「ふっ……」
不意に笑った影。
否、形だけ取り繕った無機質な笑い。
「誰でもこうなっちゃうの?蓉子は」
くつくつ笑い、私の足の付け根にすっと手を差し入れる。
嫌がるべき行為のはずなのに。
私はただ暗闇に冴える細く白い指を目で追っただけ。
ひた、と触れる指に体が、心が跳ねる。
今まさに溢れている私の粘液が、
あなたの指をより艶かしく濡らすのかしら
「何か言って、何か行動して、私を拒絶してよ、ねぇ」
笑いながら泣きそうな顔して。
自ら求めてそれを拒絶しろと言って。
なんたる矛盾。
なんたるわがまま。
図らずも私の口が歪んだ。
歪な笑みを浮かべ
「いいわ、聖。私はあなたとこうなりたかったもの。
ただ、あなたは順序を間違えただけなの」
だから、腕をほどいて
あなたに触らせて
その言葉は呪詛のように聖を侵食していく。
「駄目だ、駄目だダメだだめだだめだ。求めない求められない。求められてもいけない。だめなんだ、だめなんだ」
早口にまくしたて私に埋めていた指を動かす。
乱暴で、お世辞にも愛撫と呼べた動きじゃないものに私は感じる。
ある一つの事実が私に快楽をもたらすのだ。
「じゃあ、今あなたが私にしている行為は何?」
聖が私に拒絶を“求める”行為をするという事実。
絶対的な真実だった。
なんであれ私は聖に求められている。
それがどれだけ嬉しいか今の聖にわかるはずがないのだけど。
「違う私は、求めてはいない求めちゃいけない、違うよ、ねぇ、もう求めないから」
――栞
と最後に言ったきり聖は黙ってしまった。
動きも止まり、拘束されていた腕が解放される。
「あなたが私の体を見て誰を思っていたか、気付いていないとでも思って?」
手首が痛いが今は気にしている場合じゃない。
やっと解放された腕を聖の首に回し、
私は笑う
「紅薔薇を舐めないでほしいわ、白薔薇様(ロサ・ギガンティア)」
垂れ下がった前髪の隙間から見た聖の口元は、
確かに笑っていた。
END
テーマは純情ビッチ!なんて言ったら蓉子様ファンに土下座行脚をせねばなるまい。
ブラウザバックでお戻りください