パートナーとして同居しながらも喧嘩の絶えない日々は相変わらずで、
まさか自分の想いが成就するとは思っていなかった。
叶わない願いと思いつつも一緒に暮らしていく中で嫌でも思いは募る。
同居人・戦友・喧嘩友達と様々な面で私に関わるのだ。
淡い気持ちはいつしかどろどろと私の中にたまっていた。

そんなある日、耐え切れなくて思わず言ってしまった「好き」の一言に
あいつはさもなんでもないように「私も好きですよ」と返してきやがったのだ。
それを友情からの言葉だと勘違いした私は猛然と紅葉に噛みついた。

「そんな軽々しいもんじゃないわ!あんたに恋してるから・・・好きって言ってんの!紅葉!!」
「なんですか、怒鳴んないでください。だから私も好きって言ってるじゃないですか」
「なんでそんなさらっと言えるのよ、真剣に考えて!」
「真剣ですよ、失礼な・・・私は言葉だけじゃダメなんですかね?市子」
「・・・っは?」
「ふざけているように、聞こえちゃいますか?」

いつもみたいな言葉の応酬になってしまうんだろうな、と考えていた私は
突然自分の視界に入り込んだ紅葉の、めったに見られない真剣な瞳に射抜かれた。
いつもは気だるげに開いている瞳が今は明確な意思を持って自分を見ている。
この事実に私の動きは止まってしまった。
―心が縛られる。
ひんやりとした紅葉の左手が固く握られた私の右こぶしに触れて、
柔らかくもみほぐされ、指を絡めて握られた。
―体も縛られる。
すっと近づいてくる紅葉の顔を見て私はとても卑怯だと考えた。
心と体を、他の誰でもない紅葉にふわりと縛られて逃げられるわけがないのに。
ここまで意思を持って近づかれてなにをされるかわからないほど子供でもない。
私の唇に息がかかる距離で、私にしか聞こえないような声で、彼女は囁いた。

「ちゃんと“好き”ですよ」

そのあとに意外としっとりした紅葉の唇が私のそれに触れて、
そこでやっと私は想いが通じ合ったのだと確信した。
唇が離れ、ぎゅっと紅葉に抱き寄せられる。
身長は同じぐらいだから、首に押し付けられるような形になった。
顔がとんでもなくあつい。
絶対にこの異様な熱は紅葉にも伝わっているはずだ。
そのことがさらに私の顔をあつくさせる。

「行動に移さないとわからないでちゅか?いちこちゃん」

赤ちゃんに尋ねるようなふざけた調子で聞かれ、反論しようとやおら顔を上げると紅葉の真っ赤な耳が目に入った。
ぴったりとくっついた胸からはばくばくとした私の心音以外に、紅葉から似たような速さの鼓動が伝わってくる。
こいつでも恥ずかしいとかあるんだ、と自分と同じ余裕のない心境のはずなのに
おちゃらけて余裕ぶる紅葉がどうにもいとおしくなった。

「っ・・・ふふっ。・・・ちゃんと伝わったわ」
「・・・なに笑ってんですか」

少し拗ねたように紅葉は言って、抱擁をきつくする。
耳元に口を寄せ紅葉が囁く。

「すきです」

優しい低音がふわふわ私の耳をくすぐる。
心もふわふわと紅葉に包まれる気がする。
あんたも、私と同じようにふわふわしてくれるといいな、という思いを込めて私も耳元で言う。

「もみじ、すき」

紅葉は「あー」だとか「うー」だとか小さくうめいて私の首筋に顔をぐりぐりと押しつけた。
押し付けられる紅葉の顔は、あつい。

「あなたって時々とんでもなくかわいくて、ずるいです」

いとおしい、と呟いて、抱擁を解かれ再度口づけられる。
先ほどと違いほんの少しだけ余裕のできた私は紅葉に答えるようにくっと近づいた。
腰に回っていた紅葉の左手は私の頬に触れ、顎、首筋と伝って後頭部にまわり、
頭をぐいっと引き寄せられさらに深く密着した。
紅葉が首の角度をゆっくり傾け、唇同士が深く重なり合っていく。
緊張とわずかな興奮で息継ぎの仕方を忘れる。
一瞬唇が離れちゅっと水音が鳴った。そのわずかな隙間でお互いに息を吐き、閉じていた目を開ける。
紅葉は目元をうっすら染めてこちらを見つめていた。
始めて見るその顔にたまらなくなってやや骨ばった肩に顔を寄せる。
妙に恥ずかしい。もうやだ、顔があげられない。
しばらく顔があげられない私の気持ちを察して紅葉はふっと笑った。

「これで正真正銘“パートナー”ですね。よろしくおねがいします市子」
「・・・・こちらこそ」


◇    ◇    ◇    ◇


あの日から数か月経った。
お互い好きあっていてももちろん喧嘩はする。
私とあいつの喧嘩なんてのは挨拶よりも高い頻度で行われるのだから当然というか・・・もはや必然。
それでも付き合ってからはもっぱら痴話げんかと呼ばれるようなものが多くて、この間も学校で喧嘩をしていたら
「夫婦喧嘩はよそでやれ!」って先生に怒られたっけ。
思い出せば笑いが込み上げるような平和な喧嘩をして、時折その喧嘩を嵐丸や撫子にいじられて、
私の日々はおおむね安泰。

・・・って言いたいんだけど、最近は少し不満がある。
二人きりの時は大体しょうもない喧嘩をしているが、その、いちゃいちゃするときもある。
恋人同士なわけだし、二人きりならなおさら、くっつきたいっていうか。

ソファーに並んで座っているとき、どちらともなく近づいてそっと手を重ねた。
なんてことない会話を交わしながら肩を寄せ合いテレビを眺める。
めぼしいバラエティー番組は終わり、テレビを消して束の間の静寂のあと、紅葉に名前を呼ばれる。
これが、合図。

「市子」

頬に手が添えられて、優しく紅葉の方に引き寄せられる。
音すら立たないぐらいかるーく口づけて、終わり。

「おやすみなさい」
「・・・ん、おやすみ」

私の不満とはこれだ。
紅葉と付き合ってそれなりに月日は経っているはずなのだ。それなのに未だにキス止まり。
それもすっごい軽いやつだけ。
告白して2回目のキスの方が(恐らく)深いとはこれいかに。
こんなことを言うのもアレかもしれないが自分の体つきにはかなり自信がある。
もうちょっと、あの、興味を持ってもらってもいいんじゃないか、なんて。
でもアイツ巨乳に対してとてつもなくコンプレックス持ってるから逆に私の体はダメなのかな?

なんにせよ、まったく進展がないのだ。
見た目は若いと言っても一応神様なわけで、私よりもはるかに長生きしてるわけだから・・・・もう枯れちゃったのかな?
・・・ある、ありそう。あいつのものぐさは折り紙つきだし、
いくら恋人ができてもそういう行為すら面倒くさいと思っているかもしれない。
なんだかんだ言ってもあいつから見た私なんて所詮ただの小娘。
恋愛対象ではあっても性的な欲求が湧くような相手ではないのかもしれない。

ぐるぐる悩んでも結果なんて当然でない。直接、聞くしかないのかな。
恥ずかしいけど、私はこのままじゃイヤだ。
あんなキスだけなら友達の延長でもできてしまうものだ。
恋人同士がするようなことがしたい、他の誰でもないパートナーで恋人の紅葉と。

―明日、聞いてみよう。

そう決めて私は押し入れにいる紅葉に「覚悟しなさいよ」と心の中で声をかけてベッドにもぐりこんだ。
 
 
 
 
 
 
 
つづく
 
 
 
 
実は続き、R-18なんです。
お手数ですがPixivへとんでくださいorz
 
「パートナー2」/「ウニ坊」の小説 [pixiv] パートナー2(別窓開きます)

 
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