シュガー・シュガー



聖の部屋はコーヒーの香りがする。
独特な、少し鼻に残るような濃い香り。
それをあまり不快に感じないのはコーヒーが好きだからか聖がいつも飲んでいるからか。

「蓉子なに飲む?」
「コーヒー」

とっさに出た言葉だった。
自分でも無意識のうちに発していた言葉にびっくりした。
それは聖も同じなようで目を丸くしている。
普段滅多にコーヒーなんか飲まないから。

「りょーかい」

ニコッと効果音がつきそうな程の笑顔になり了承の声。
そんな時間も経たずに私の前に置かれるコーヒーカップ。

「砂糖入れるよね」
「ええ」

ブラックで飲めないというわけでもないけど、
好きこのんで飲もうという気にもなれないから私はいつもコーヒーに砂糖を入れる。
さらさらと音をたてて黒に近い茶色に飲み込まれていく白。
それをそえられていたスプーンで軽くかき混ぜてから一口。
うん、おいしい。

「ふふ、そっかよかった」

ニコニコ笑う聖に一瞬ついていけなかったけど、
さっき私の独白のつもりで心のなかで呟いた「おいしい」が口から漏れていたことに気付いた。
でも本当に聖のコーヒーはおいしい。
薔薇様と呼ばれていたあの頃からずっと変わらない味で。
まだ微かに綻んでいる聖の口に触れるだけのキス。

「…お礼」

衝動的としか言いようがない行動を誤魔化すかのように付け足す言葉。

「甘い」

そう言って微笑む聖に「砂糖を入れたからよ」と言って微笑み返した。



END
 

 

聖蓉の結婚式はいつですか?

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